Mizuho Asia Gateway Review 2016年8月号

Investment Holding Companies の特殊な所得計算

青山綜合会計事務所シンガポール
長縄順一 日本国公認会計士・税理士
成田武司 日本国税理士


はじめに

Mizuho Asia Gateway Review 5月号  世界でも有数の事業インフラが整っている国であるシンガポールでは、通常の事業に加え、投資が活発に行われています。子会社等への出資や、不動産の取得等のためにシンガポール法人が設立されることがあります。
 法人においては、通常の事業会社に対する税制の他に、Investment Holding Companiesに対する税制が別途規定されています。本稿では、通常の事業会社の税制及びInvestment HoldingCompaniesに特別に設けられている規定を中心に解説します。

Investment Holding Companiesとは

 Investment Holding Companiesは、長期的な投資目的の不動産や株式等から、賃貸収入や配当等の受動的所得を得ることを事業目的としている会社をいいます。これは、不動産や株式等を経常的に売買し、利益を得ることを目的とするトレーディング会社は該当しないことになります。

課税所得の計算方法

 Investment Holding Companiesの課税所得は所得の源泉別に益金から損金を控除した金額を合計して算定します。具体的には、所得は配当、利子、資産所得、ロイヤリティ等に分類され、それぞれに対応する損金を控除した金額を合計して算定します。源泉別にそれぞれの所得を計算することから、ある所得がマイナスとなっていた場合であっても、他の所得と相殺することができません。例えば、不動産所得がマイナスとなった場合に、他の配当所得や利子所得等の所得から、その不動産所得のマイナス分を控除することができません。なお、長期的な投資目的の不動産や株式等の売却から生じたキャピタルゲインやロスは課税所得を構成しません。
 課税所得は会計上の税引前利益から算定されますが、会計と税務はそれぞれ独立しています。日本では、損金経理要件を満たした場合に税務上も損金として認められる規定がありますが、シンガポールではそのような規定はありません。

特殊な損金算入規定

 一般事業会社においては一部の経費を除き、会計上の費用を損金算入できるが、InvestmentHolding Companiesは、一般事業会社に比べ、損金算入できる金額に制限が設けられています。
 これは、Investment Holding Companiesが資本取引を主たる事業としており、発生する費用が損益取引に貢献しているか否か、判断が困難であるため、損金算入することができる費用を明確にしています。損金算入することのできる費用は、①直接費用、②法定費用及び③間接費用の3種類に区分されます。
①直接費用は源泉別のそれぞれの益金から全額控除可能です。②法定費用は、源泉別の益金と対応していませんので、各益金の額に応じて案分して控除可能です。③間接費用については、法定費用と同様に各益金の額に応じて案分して控除可能ですが、損金算入可能額は総収入金額の5%が上限とされています。間接費の損金算入性については、一般事業会社とInvestment HoldingCompaniesとの間に差異がみられます。
 なお、直接費用、法定費用及び間接費用のそれぞれの内容及び該当費用項目は次の通りです。
①直接費用は、源泉別に区分された各種所得を稼得するために直接生じた費用をいい、不動産や株式を購入するための借入金に係る支払利息、不動産にかかる保険料や固定資産税等が該当します。
②法定費用は、会社が法令順守を行うために必須といえる費用で、会計費用、監査費用、秘書役費用及び銀行手数料等があります。
③間接費用は、会社運営のための一般管理費であって、役員給与、従業員給与、事務所家賃及び交通費等が該当します。

繰越欠損金及びキャピタルアローワンス

一般事業会社では、欠損金を繰り越すことができ、株主が実質的に50%以上変動しない限り、無期限に繰越欠損金を控除することができます。一方、Investment Holding Companiesは将来の所得を相殺するために未使用の損失を繰り越すことが できません。
 一般事業会社では社用乗用車等を除き、税務上の減価償却費であるキャピタルアローワンスが認められています。さらに当期の課税所得から控除しきれなかった場合には翌期以降に繰り越して、控除することが可能です。翌期以降に控除するためには、株主が実質的に50%以上変動しないこと、及び同一の事業を営んでいることが要件となります。一方、Investment Holding Companiesは、キャピタルアローワンスによる損金計上が原則として認められていないため、InvestmentHolding Companiesにとって不利な税制となっています。ただし、Investment Holding Companiesであっても、既存の固定資産を交換するための取替費のみ、控除対象とすることができます。

税額計算

 一般事業会社の場合で、一定の要件を満たすときは、設立後3賦課年度は、最初のSGD100,000は全額免税、次のSGD200,000までは50%が免税となる制度があります。これを新設法人のためのTaxexemption制度といいます。一定の要件とは次の通りです。
・株主が全て個人で、20名以下であること。または、1人の個人株主が少なくとも10%以上保有していること。
・シンガポールで設立された法人で、税務上もシンガポール居住法人であること。
 また、シンガポールの全ての会社に適用されるPartial tax exemption制度があります。具体的には、前述の方法により算定した課税所得のうち、最初のSGD10,000 は75% が免税となり、次のSGD290,000までは50%が免税となる制度です。Investment Holding Companies はPartial taxexemption制度のみが適用され、新設法人のためのTax exemption制度の適用はできませんので留意が必要です。
 ただし、SGD20,000を上限として、税額の50%が控除されるTax rebateの制度については、一般事業会社のみでなく、Investment Holding Companiesであっても適用されます。

おわりに

 日本では受動的所得のみを稼得する会社であっても、シンガポールのように所得の源泉別に分けて計算することがありません。また、日本では間接費の損金算入制限もないため、違和感を覚える方もいることと思われます。Investment HoldingCompaniesは、一般事業会社と計算方法が異なることが多く、税制面で不利に扱われることがありますので、専門家のアドバイスを受けることが望まれます。




長縄 順一

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国公認会計士・税理士

慶應義塾大学経済学部卒。1998年監査会社トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務に従事した後、2001年より青山綜合会計事務所に入所。数多くのファンド組成・管理、クロスボーダー取引へのアドバイザリー業務に携わる。その 後、同社にて海事グループ及びグローバル・アドバイザリーグループを統括し、2012年より青山綜合会計事務所シンガポールの代表としてシンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。

成田 武司

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国税理士

明治大学経営学部卒。2005 年より会計事務所にて、幅広い業種の事業会社の会計税務業務に従事した後、2011 年より青山綜合会計事務所に入所。金融債権・不動産などのストラクチャードファイナンス業務に携わる。その後、2013 年より青山綜合会計事務所シンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。