Mizuho Asia Gateway Review 2017年2月号

SFRS第116号「リース」の概要

~財務諸表に与えるインパクトの大きい新基準~

※ 無断転載を禁じます

青山綜合会計事務所シンガポール
日本国公認会計士・税理士 長縄順一
日本国公認会計士 浦野伸吾


はじめに

Mizuho Asia Gateway Review 2月号  国際会計基準審議会(IASB)が2016年1月にIFRS第16号「リース」を公表しました。これに伴い、シンガポール会計基準評議会(ASC)がFRS第116号「リース」を公表しました。これは、2019年1月1日以降に開始する事業年度より、全てのシンガポール企業に適用されます。本稿では、FRS第116号の重要な点について解説したいと思います。FRS第116号「リース」は、貸手の会計処理に関しては現行のリース会計基準であるFRS第17号からほぼ変更はない一方で、借手の会計処理に大きな変更をもたらします。FRS第17号では、リースをその契約内容からオペレーティング・リースかファイナンス・リースに分類するものでしたが、FRS第116号では、借手は原則として、簡便なオペレーティング・リースの会計処理をとることができません。従って、FRS第116号を適用した場合、借手は原則として全てのリース取引を使用権資産及びリース負債としてオンバランスすることになります。

「リース」の定義

 FRS第116号では、リースを「対価と交換に一定期間にわたって資産(原資産)を使用する権利を移転する契約または契約の一部」と定義されています。従って、企業は契約または契約の一部にリースが含まれているかどうかを判断する必要があります。契約がリースを含むためには、特定された資産の使用を支配する権利を移転する契約であることが必要です。具体的には、企業は次の3つの要素を検討する必要があります。
  1. 特定された資産

     契約がリースを含むかどうかを決定するためには、まず、対象となる資産が特定されているのかどうかを検討します。一般的には、契約において特定の資産が明記されますが、資産が顧客(借手)に利用可能とされる時点で黙示的に定められることもあります(契約条件を満たすために用いることができる資産が1つしかない場合等)。なお、たとえ資産が特定されていたとしても資産の供給者(貸手)が使用期間全体を通じて資産を入れ替える実質的な権利を有している場合には、資産の使用は実質的に供給者により支配されていると考えられ、特定された資産は存在せず、この場合、契約はリースを含みません。
  2. 特定された資産の使用からの経済的便益に対する権利

     特定された資産が存在する場合、続いて、顧客が一定期間にわたって資産の使用から生じる経済的便益のほとんど全てを得る権利を有しているかを検討する必要があります。顧客が一定期間にわたって資産の使用から生じる経済的便益のほとんど全てを得る権利を有していない場合、契約はリースを含みませんが、ここでいう経済的便益とは資産の使用から生じる便益であり、資産の所有に関連した経済的便益は考慮しません。これは、リースは原資産の所有を移転するものではないからです。
  3. 特定された資産の使用を指図する権利

     特定された資産が存在し、当該資産の使用から生じる経済的便益のほとんど全てを得る権利を顧客が有している場合、最後に、顧客が使用期間にわたって資産の使用目的及び使用方法を指図する権利を有しているかを評価します。この評価を行う際は、顧客が資産の使用から得られる経済的便益に影響を与える意思決定権を有しているかどうかに着目します。なお、顧客と供給者のいずれも特定された資産の使用を指図する権利を有していない場合には、資産の使用目的及び使用方法に関する事項が事前に決定されており、当該事項に関しての顧客の関与の有無の検討が必要になります。
 日本基準においてはリース取引(ないしは賃貸借取引)という名目の契約についてのみ、会計上のリース取引として扱うケースが多いと思われます。しかし、FRS第116号では、契約形態に関わらず、実質的なリース取引に該当すれば、会計上のリース取引として取り扱うことになります。多くの企業が関連するであろうオフィス・スペース等の不動産リースも、契約内容にもよりますが、本基準適用によりオンバランスが要求されることが見込まれています。

借手の会計処理

 FRS第116号では、借手は、原則として、全てのリース取引をオンバランスします。具体的には、リースの開始日において、貸方に「リース負債」を、借方に「使用権資産」を計上します。リース負債は、リース期間にわたって支払われるリース料総額の現在価値に基づき測定します。一方、使用権資産は、リース負債として測定されたリース料総額の現在価値に前払リース料、リース・インセンティブ、初期直接コスト、及び現状回復の見積コストを調整した金額で測定します。リース負債はリース料の支払をリース期間にわたって利率が一定になるようリース負債の返済と利息費用に区分して測定します。一方、使用権資産は、通常定額法により減価償却が行われます。

 借手は、例外として、短期リース(リース期間が12ヶ月以内のリース)については、原資産の種類ごとに、現行基準のFRS17号のオペレーティング・リースの会計処理をとることができます。つまり、使用権資産とリース負債を認識しないことが可能です。なお、購入オプションを含んだリース取引は、購入オプションが行使される可能性に関わらず短期リースとして分類することができないことには留意が必要です。
 同じく例外として、少額資産のリースについても、FRS17号のオペレーティング・リースの会計処理をとることができます。少額資産のリースにオペレーティング・リースの会計処理を適用するかどうかは個々の原資産毎に判定しますが、原資産の価値を当該資産が新品である時点での価値に基づいて評価します。FRS第116号は、何が「少額」資産に該当するかに関しての定義は示しておらず、一定の金額基準で少額かどうかの判断を行い、その判断は借手の規模、性質または状況の影響を受けず、特定の原資産について全ての借手が同様の判断に至ることが見込まれるとのみ記載されています。これに関して、IFRS第16号の結論の根拠には、「2015年にこの免除に関する決定に至った時点で、IASBは、新品時に5,000米ドル以下という規模の価値の原資産のリースを念頭に置いていた」との記述がありますが、この金額基準は各国によって異なりうる可能性が考えられることから、実務上、関係省庁ないしは会計基準設定委員会が新たな指針を発行することが望まれます。

貸手の会計処理

 FRS第116号における貸手の会計処理は、基本的に現行の基準であるFRS第17号の会計処理から変更はありません。貸手は、全てのリース取引をオペレーティング・リースかファイナンス・リースに分類し、オペレーティング・リースについては原資産の認識を継続し、原資産の減価償却費は費用として、リース料の受取を収益として認識します。ファイナンス・リースについては、貸手は原資産の認識を中止し、新たに正味リース投資未回収額として債権を認識します。FRS第116号においては、上述のように借手の会計処理が変更される一方で、貸手の会計処理に変更が無いことから、借手、貸手双方がリース物件をオンバランスする状況も生じ得ます。

おわりに

 上述の通り、借手は原則として全てのリース取引をオンバランスすることから、本基準の適用により財務数値への影響を大きく受けるものと思われます。また、現状リースとして認識していない契約もリースの対象となりうることから業務プロセスにも影響を与えるでしょう。本基準を踏まえたリース会計に関する実務が定着するにはある程度の時間を要すると考えられ、各企業において早期から情報収集及び本基準適用に向けた準備をされることが望まれます。



Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国公認会計士・税理士

長縄 順一

慶應義塾大学経済学部卒。1998年監査会社トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務に従事した後、2001年より青山綜合会計事務所に入所。数多くのファンド組成・管理、クロスボーダー取引へのアドバイザリー業務に携わる。その後、同社にて海事グループ及びグローバル・アドバイザリーグループを統括し、2012年より青山綜合会計事務所シンガポールの代表としてシンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国公認会計士

浦野 伸吾

関西学院大学商学部卒。2008年にあずさ監査法人に入所し、多様な業種の国内企業の監査業務に従事した後、2015年にオランダ ロッテルダムのエラスムス大学へ留学しMBA(経営学修士)を取得、2016年より青山綜合会計事務所シンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。


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