Mizuho Asia Gateway Review 2015年8月号

GST登録の留意点

Goods and Service Tax

2015年08月

みずほ銀行発行のMizuho Asia Gateway Review 2015年8月号に青山綜合会計事務所シンガポール代表・長縄順一、成田武司の寄稿記事が掲載されました。

GST登録の留意点

青山綜合会計事務所シンガポール
長縄順一 日本国公認会計士・税理士
成田武司 日本国税理士


はじめに

Mizuho Asia Gateway Review 5月号

日本の消費税に該当する付加価値税として、シンガポールではGoods and Service Tax(GST)があり、1994年に導入されました。導入当初の税率は3%でしたが、現在は7%となっており、一貫して上がり続けています。これは、法人税が導入されて以降、その税率が下がり続けていることと対照的です。直接税としての法人税から間接税としてのGSTに移行させ、税源の直間比率を変えていこうとするシンガポールの政策が読み取れます。

今後もGSTの重要性は高まっていくことが予想され、正しい申告をしなければ重い罰金が発生します。本稿ではGST登録の制度を中心に説明するとともに、IRAS (Inland Revenue Authority of Singapore) がメディアを通じて公表した事例を用いて、罰則や不測の事態を生じさせないための留意点を解説します。


GSTの制度概要

シンガポールのGSTは日本と類似するシステムで、売上に係るGSTから仕入に係るGSTを控除して差額を納付又は還付する制度となっています。
シンガポールにおいてはインボイス方式が採用さ れており(日本は帳簿方式)、課税事業者のみがタックスインボイスを発行することができます。すなわち、課税事業者として登録した事業者のみがGSTを顧客に請求できます。反対に、課税事業者でなければ、タックスインボイスを発行することができませんし、仕入税額控除を適用することができません。課税事業者が発行するタックスインボイスには「Tax Invoice」と表記した上で、次の事項を記載する必要があります。
  • 会社登録番号
  • GST登録番号
  • 発行者の住所
  • 課税前、課税後の請求額及びGSTの金額
  • 売上先の名前及び住所等

GST未登録業者に対する罰則事例

GSTの課税対象は、シンガポールにおいてGST課税事業者が事業として販売した資産及び提供したサービスとされていますが、次の事例では、GSTの課税事業者としての登録をせずに、タックスインボイスを発行し、GSTを徴収した事例を紹介します。本事例はIRASのホームページにおいて公表されています。


事例1(公表日2015年7月27日)

GG Construction Pte Ltdはリフォームサービスを消費者に提供していました。GST登録をせずにGSTを含んだ見積書及び請求書を発行していました。GST登録をせずに、違法なGSTとしてSGD37,975を顧客から徴収したため、総額SGD230,250の罰金の支払を裁判所から命じられました。
日本では消費税の課税事業者でない免税事業者も消費税を顧客に課すことができますが、シンガポールにおいてはGSTの課税事業者として登録した事業者のみがGSTを課さなければなりません。GSTの課税事業者か否かによってInvoiceの発行や手続き等に差異があります。
IRASは、企業が正しくGSTを課しているかどうかをチェックするなど、法令遵守していない業者を特定するために、税務調査を行っています。


事例2(公表日2015年5月13日)

個人事業者AはGSTの未登録業者として、インテリアデザインやリフォームサービスを顧客に提供していました。個人事業者Aは、GST登録をしていないことからタックスインボイスを発行することを認められていませんが、GST込みの金額で24枚のタックスインボイスを発行しました。そして、GSTを不正に徴収し、その金額から下請業者への支払に充てていました。
裁判所は個人事業者Aに対し、不正に徴収したSGD8,863.31の3倍に相当するSGD26,589.93の違反金に加え、SGD12,000の罰金を命じる判決を下しました。さらに、個人事業者Aは50日間の懲役刑も併科されました。
日本では、悪質な仮装、隠蔽等の事実があり、無申告の場合には重加算税が課され、最も高い税率である40%が適用されます。これに対し、本事例では、GSTの未登録業者が不正に徴収したGSTの金額がそれほど多額でない場合であっても、不正に徴収したGSTの3倍の罰金が課されました。
このように、シンガポールではGST登録をせずにタックスインボイスを発行した場合には、金額の多寡に関係なく、重い罰金が発生することになります。


GSTの登録

事例を通じてGST登録の重要性を確認しましたので、以下ではGST登録の制度を説明します。
1年間の課税売上高がSGD1,000,000を超える事業者はGSTの登録義務があります。なお、この課税売上高には、シンガポールにおける資産の譲渡やサービス提供以外にも、輸出免税取引といわれるシンガポールから国外への輸出取引の売上高が含まれます。一方、受取利息や受取配当金等の非課税売上や、シンガポールの会社が海外で行う役務提供等に係る売上高は上記の課税売上高に含まれません。


GSTの任意登録

1年間の課税売上高がSGD1,000,000以下である場合でも任意登録を行うことができます。例えば、設立間もない会社でGSTの支払が先行して発生する会社等はGSTの登録事業者となることによって、GSTの還付を受けることができる場合もあります。ただし、任意登録を行おうとする事業者は一定金額の銀行保証を要求されるケースもあり、その点も考慮して判断することになります。なお、GST登録をした事業者は、最低2年間はGSTの課税事業者となります。


GSTの申告期限

GSTの登録後は、各四半期の翌月末までにGSTの申告及び納付をすることになります。四半期毎の申告納付が原則ですが、輸出業者等で還付が経常的に発生する事業者は毎月申告を行うことが可能です。


おわりに

シンガポールのGST制度は日本と類似している制度ですが、手続き面において異なる点が存在しています。単なる間違いであってもシンガポールでは即罰則を課せられてしまうケースもあります。特にGSTの登録をしていないのに顧客にGSTを課してしまうケースや、GST登録の要件を満たしているのにGST登録をしないケース等が挙げられます。このような問題を未然に防ぐために、Tax agent等のモニタリングを定期的に受けることが望まれます。




長縄 順一

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国公認会計士・税理士

慶應義塾大学経済学部卒。1998 年監査会社トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務に従事した後、2001 年より青山綜合会計事務所に入所。数多くのファンド組成・管理、クロスボーダー取引へのアドバイザリー業務に携わる。その後、同社にて海事グループ及びグローバル・アドバイザリーグループを統括し、2012 年より青山綜合会計事務所シンガポールの代表としてシンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。

成田 武司

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国税理士

明治大学経営学部卒。2005 年より会計事務所にて、幅広い業種の事業会社の会計税務業務に従事した後、2011 年より青山綜合会計事務所に入所。金融債権・不動産などのストラクチャードファイナンス業務に携わる。その後、2013 年より青山綜合会計事務所シンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。