Mizuho Asia Gateway Review 2014年5月号

「見落としやすい税務論点-源泉所得税」

―シンガポール法人が行う日本向けソフトウエア開発を題材として―

※ 無断転載を禁じます

2014年5月

みずほ銀行発行のMizuho Asia Gateway Review 2014年5月号に
青山綜合会計事務所シンガポール代表・長縄順一、成田武司の寄稿記事が掲載されました。

「見落としやすい税務論点-源泉所得税」

―シンガポール法人が行う日本向けソフトウエア開発を題材として―

青山綜合会計事務所シンガポール
長縄順一 日本国公認会計士・税理士
成田武司 日本国税理士


はじめに

Mizuho Asia Gateway Review 11月号

海外進出を検討する際、進出先の法人税が話題にあがりますが、海外進出に伴いクロスボーダー取引が発生する場合には源泉所得税の検討も大事な税務論点となります。 ここシンガポールには多くのIT企業が進出されていますが、特にソフトウエア開発等をシンガポールに拠点を置いて行い、完成物をシンガポールから日本に逆輸入する場合には、シンガポール法人が日本法人から対価を受領する際に源泉所得税が発生するケースが存在します。

本稿ではシンガポール法人が行う日本向けソフトウエア開発を題材として著作権等の無形資産の源泉所得税について整理します。具体的には、日本で源泉所得税を徴収さるケースの解説及びその税額を軽減する方法(又は還付を受ける方法)と、シンガポールでの確定申告時に納付する税金から控除する方法を解説します。


ソフトウエア開発の対価が使用料に該当するか

国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又はその譲渡による対価で当該業務に係わるものは国内源泉所得とされています。シンガポールにおけるソフトウエア開発の対価が下記使用料に該当する場合には日本において源泉徴収の対象となってきます。
  • 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式もしくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価
  • 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)の使用料又はその譲渡による対価
  • 機械、装置その他政令で定める用具の使用料

なお、この使用料には契約の締結にあたって支払う、いわゆる頭金や権利金等も含まれます。使用料に該当するか否かは、形式的にその名目によって判断されるのではなく、実質的な内容によって判断されます。
ここで、源泉徴収が必要となる対価か否かについて、重要な示唆を与える国税不服審判所平成21年12月11日裁決を確認します。本事例はゲームソフトの開 発費の取扱いですが、ソフトウエア開発についても同様に取り扱うことができると考えます。


裁決事例(裁決事例集No,78 208頁)

  • 事案の概要

    請求人がゲームソフトの開発費及びゲームソフトのパッケージ・広告用のイラストの制作費としてE国に本店を置く外国法人に対して支払った金員について、原処分庁が、当該開発費及び当該イラスト制作費は所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の譲渡の対価に当たるものであり国内源泉所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、これらは開発委託費等であり著作権の譲渡の対価には該当しないとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案です。

  • 判決の要旨

    請求人は、原処分庁がゲームソフトの開発委託契約に基づいて請求人がE国法人に支払った金員は国内源泉所得となる所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとして行った源泉所得税の納税告知処分等について、当該金員は開発委託に対する対価であるから源泉所得税の課税対象となる国内源泉所得に該当しない旨主張しました。しかし、本件開発委託契約の目的は、E国法人が保有する原著作物を基礎とした新たなゲームソフトの開発及び販売であり、その合意は、E国法人から請求人に対する当該ゲームソフトの二次的著作物に係る著作権の譲渡又は使用許諾であるといえるから、本件開発委託契約に基づいて支払った金員は、当該二次的著作物に係る著作権の譲渡又は使用許諾の対価にほかならないから、源泉所得税の課税対象となる国内源泉所得に当たるとみるのが相当であると結論付けました。


本裁決から考える著作権の使用料又は譲渡の対価の射程

前述の開発委託契約は、本件ゲームソフトを完成させることを目的とした請負契約という面と著作権の譲渡及び使用許諾に係る契約という面を併せ持つ契約ということになります。では、請求人が支払った金員はどこまでが著作権の使用料又は譲渡の対価と考えるべきでしょうか。
現行法上、創作性を伴わない工賃部分と創作性を伴う著作権に属する部分の費用が渾然一体となっている場合には、支払額の全額を使用料として源泉徴収の対象になります(所得税基本通達161-25参照)。創作性を伴う著作権に属する部分のみを源泉徴収の対象とする場合には、創作性の伴わない機械的作業の業務範囲を明確に区分しなければなりません。このため、創作性の伴わない機械的作業の業務範囲をできるだけ区分することができれば税務上の紛争を防ぐ一つの手立てになると考えられます。

本則税率と租税条約の軽減税率

次に、使用料として源泉徴収の対象となった場合の源泉徴収税率及び軽減税率を確認します。

日本とシンガポールとの間には「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とシンガポールとの間の条約(以下、日星租税条約といいます。)」、いわゆる租税条約が締結されています。これは、主として国際的な二重課税の回避又は排除を目的として、資本、技術、人的交流等を円滑に行うために締結されています。
日本の法律で定められている使用料の源泉徴収税率は20%となっていますが、日星租税条約によって10%に軽減されています。源泉徴収税率の軽減を受けるためには、その支払いを受ける者(シンガポールの居住者ないしは法人)が租税条約に関する届出書をその支払者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
租税条約の届出書は支払日の前日までに提出する必要がありますが、仮に租税条約に関する届出書を提出期限までに提出できなかったため租税条約に定める税率の軽減を受けられず、20%の源泉税を納付した場合でも、後日、租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書等を所轄税務署長に提出することで軽減税率を適用した場合との差額の金額が支払いを受ける者(シンガポールの居住者ないしは法人)に還付されます。


シンガポールにおける外国税額控除

シンガポール法人は、国外で生じた所得について外国の法令で所得税に相当する租税(以下「外国所得税」といいます。)の課税対象とされる場合、日本及びシンガポールの双方で二重に所得税が課税されることになります。この国際的な二重課税を調整するために、シンガポールの確定申告時に一定額を所得税の額から差し引くことができます。これを外国税額控除といいます。日本で発生した源泉所得税も外国税額控除の対象となります。
所得税から控除することができる一定額は、外国所得税の全額ではなく、総所得に対する国外所得に関する売上高と国内所得に関する売上高の割合を用いて計算され、また、納税額がある場合にのみ、所得税額から控除することができるという制度になっています。このため日本で発生した源泉所得税が全額控除できないケースが存在するため留意が必要です。

おわりに

以上の結果、日本に対するソフトウェア取引に関しては、各国で発生する税額を適正化するためには、①使用料として源泉徴収の対象となるか、②租税条約の適用、③外国税額控除の適用の有無の3場面に分けて日本税法、シンガポール税法、さらに租税条約を横断的に確認することが大事です。特に使用料として源泉徴収の対象となるかについては、事実認定に関して課税庁との紛争になりやすいため、創作性の伴う作業か否かや契約書等における権利関係等を明確にしておくことが望まれます。


長縄 順一

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国公認会計士・税理士

慶應義塾大学経済学部卒。1998年監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務に従事した後、2001年より青山綜合会計事務所に入所。数多くのファンド組成・管理、クロスボーダー取引へのアドバイザリー業務に携わる。その後、同社にて海事グループ及びグローバル・アドバイザリーグループを統括し、2012年より青山綜合会計事務所シンガポールの代表としてシンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。


成田 武司

Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.
日本国税理士

明治大学経営学部卒。2005年より会計事務所にて、幅広い業種の事業会社の会計税務業務に従事した後、2011年より青山綜合会計事務所に入所。金融債権・不動産などのストラクチャードファイナンス業務に携わる。その後、2013年より青山綜合会計事務所シンガポールオフィスにて日系企業の海外進出支援業務を担当。


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